最終話「大氣に誓う、やまとの”みらい”を―」
「く、草加さん!!どうしてここに!?」
私が振り向いた先、そこには80歳位の老人に車椅子を引かれている草加さんの姿があった。
「私もいるわよ、兄様!」
そしてその後から付いて来る真琴の姿が見えた。
「真琴もいるのか?あっ、それよりも草加さん、貴方の車椅子を引いている人は誰ですか?」
「彼は私の海軍時代の部下だ」
「津田一馬(かずま)です。初めまして祐一君、もっとも私の方は1度貴方を見掛けた事がありますがね」
「えっ、それは何処ですか?」
「秋子婦人が入院されていたあの病院ですよ。あゆさんとはあの時会いましたよね?」
「うん。ボクが秋子さんと別れて病室の外に出た時、病室の前に居たおじさん達ですよね?」
「ええ、よく覚えていますね」
この津田という老人、草加さんに比べ何処か落ち着いた喋り方ではあるが、その屹然とした口調はやはり嘗ての日本人を思い起こさせる。
「あの時、春菊さんの知り合いと言っていましたね。…でも、ただの知り合いではない…、そんな気がするのですが……」
「読みがいいな…。確かにただの知り合いではない……言うなれば、つい一月前まで春菊殿の付人をやっていたという感じだな…」
「付人…?」
しかし、それでは答えにはなっていない気がする。その言動が余計に私には言えない何かを隠しているのではないかと疑わせる。
「いい加減、兄様に正体を明かしたら…?」
「ああ…。だがその前に祐一君、君に問いたい事がある」
「私に?」
「君はこの国の未来を荷う覚悟はあるかね?例えそれがあらゆる困難を抱えているとしても…」
「えっ、”みらい”を…ですか…?」
草加さんの問い掛けに私は一瞬戸惑う。しかし、そう訊ねられて答えに迷う事はなかった。
「生きるという事は未来を背負う事でもあります。これからの未来を背負わなければならない人間にそれを拒む理由がありますか?」
「立派な答えだ…。君のような若者が多ければ、この国の未来は安泰なのだがな……」
そう言い終えると草加さんは車椅子から静かに立ち上がり、腰に抱えていた軍刀を胸の前に掲げ語り出す…。
「私は内閣宮内庁特別捜索隊隊長草加拓海…」
「宮内庁…特別捜索…隊……?」
一瞬鞘から抜いた刀を腰に抱え直し、再び車椅子に座る。
「今から50数年前、亡き昭和天皇陛下の御勅命により結成された超極秘捜索隊だ…」
「一体何を捜索しているのですか?」
「そうだな…。その一つは力持つ者…。この国を統べる御方が嘗てお持ちになっていた力、それを補えるような力を持った人間を探す事…」
「この国を統べる者…?」
「日本国憲法第1条、天皇は、日本国の象徴であり……」
「えっ?そ、それってまさか…!?」
「そうだ…。この国の象徴たる御方、統べる尊…、即ち天皇(すめらみこと)だ…」
「す…天皇……」
私は言葉を失った…。天皇も力を持っていた…。蝦夷の力や源氏の力のようなものを…。だが、冷静に考えれば驚くべき事ではない。普通の人間が2600年以上も絶やさず特定の位に就き続けられる筈がない。特殊な力を持っていたからこそ万世一系血筋を絶やさず天皇という位に就き続けられていた、そう考えれば頷けるものもある。
「でも、嘗て持っていた…、という事は現在は……」
「そうだ…。今上天皇陛下はその御力をお持ちになられていない……」
草加さんはゆっくりと語り出す。天皇陛下が御力を御無くしになられた過程を…。
話は半世紀前に遡るという…。半世紀前、この国はアメリカを中心とした連合国との戦争に大敗を帰し、国は米国に占領された。占領政策は米国を中心としたGHQによって行われ、その占領政策の中、亡き昭和天皇陛下は人間宣言を行い自ら神秘性を否定する事を強いられた。宮中や政府内部からも多数の反対があったが、昭和天皇陛下にはある御考えがあった。この荒廃した祖国、住まう民、それらの未来の為に朕は万世一系伝えられてきたこの力を全て解放し、人間になろうと……。
「そして、昭和天皇陛下は人間宣言による全国行幸の中、その御力を全国民に御与えになられた…。国民一人一人に御与えになられたので、その与えられた力の一つ一つは微々たるものだった。しかし、その微々たる力が国民に生きる希望を、未来を創る力を与え、そして奇蹟が起きた…。僅か30数年で世界第2位の経済大国にこの国は成った…。その背景には昭和天皇陛下の国民に対する深い想いが働いていたのだ……」
私が栞に生きる希望を与えたように昭和天皇陛下も国民全てに希望を与えたのだ、自分の力を失うを前提に……。正に、象徴と呼べる御人、聖人君主である。そんな昭和天皇陛下に戦争責任だのを問うのは失礼極まりない行為だろう。
「だが、天皇陛下はその御力を持っていたからこそ、この国を統べる者であらせられたのだ。今の天皇陛下には実質的には統べる者である御資格は御有りではない、明文化された憲法によって辛うじて象徴という今の御立場に立たれていられるのだ…。もし、この事実が天皇制を良く思わない輩に知れわたったら、陛下は今の地位を降ろされる可能性がある。それを未然に防ぐ為、裏の象徴、力の象徴たる影の天皇の存在が求められた……」
「それが…、春菊さんだったという訳ですね……」
「ああ…。国体に関わる事柄故に春菊殿には死人を装ってもらわなければならなかったがな……」
「ちょうどあの時だったな…。昭和天皇が御逝去になった日の翌日、私がこの山に登りに来たら貴方達がいた……」
黙していた春菊さんが草加さんの言動に呼応し語り出す。
「春菊殿が特殊な力を持っていたのは以前から知っていた。あの学校の應援團の中からいずれ秀でた能力者が出るだろうと目を付けていたからな…」
「えっ!?草加さん達は蝦夷の力を知っているのですか?」
「ああ。あの力は昭和天皇陛下が御復活させられた力だからな…」
「えっ!?」
「この地は嘗て朝廷が征服した地。陛下は戦争に負けその罪を償わなければならないなら、この時を持ち過去の負の清算を全てし終えようと御決心為さった。そしてこの地に赴いた時、過去にその力を恐れ滅ぼした蝦夷の力を御復活させられたのだ。蝦夷の力は生活から派生した力故、生きるのが困難な者に御自分の力を分け与えるのが御復活には良策であった。そして陛下は、この地に住み戦争により孤児となった10人の子供達に御自分の力を他の国民よりより多く御与えになり、蝦夷の力を蘇らせる希望を御与えになられたという…。そしてその力を授かった生徒達が成長しあの学校に入学し、この力を生きる希望として後の後世まで伝え続けようとした…。それがあの学校の應援團の始まりだ……」
そう言えば潤が以前、蝦夷の力はある方が蘇らせるきっかけを与えたと言っていた。その御方が昭和天皇陛下だったなら、力を御与えになられた事自体極秘なのだから、与えたのが誰かまで伝わらなかったのは納得がいく。
「もっとも、それだけじゃないわよね?この地に赴き力を蘇らせた時、伝説に伝わる朝廷から逃れる為自ら狐となり山へ隠れ逃げた阿弖流為の子…。その子孫を見つけ過去の行為を謝罪し望むなら人間の生活を与える…。そしてその捜索も特捜隊の使命の一つ…。そうよね?草加さん」
草加さんに語り出す真琴の口から出る衝撃の言葉…。そう言えば以前真琴を背負って水瀬家に運んだ時、その時真琴が持っていたバックには菊の御家紋があった。という事は、あの時点で任務は完了していたという事だろうか……。
「7年前のあの日…、私は春菊殿の付添いとしてこの地へ赴いた。その時山の麓で狐を見掛けた。春菊殿がこの狐からは気配を感じると言ったので、私はその狐が我々が探していた狐だと直感した……」
「あの時私は祐一兄様に捨てられた悲しみに打ちひしがれていた…。人間の気持ちは理解出来ても言葉を喋れなかった…。もし言葉が喋れたなら、自分が人間だったらこんな結果にはならなかったかもしれない…。そう思っていた時だったわね、春菊さん、貴方が優しく声を掛けてくれたのは…。悲しむ事はない、君の祖先は人間だった存在だ…。ただ、訳あって狐となっていただけだ…。でも、もう狐でいる理由はない、君の人間になりたいという想いが強ければ君は元の人間に戻れる…。もし戻れたらこのバックを使ってくれ。これには君が人間になった時必要な物は入っていると、そう言って私に服や財布が入ったバックを渡してくれたのよね……」
あの時真琴が言った台詞は私は虚言だと思っていた。しかし、真琴の正体が分かってからは、その真琴に力の使い方を教えた者が実在しているのは察する事が出来た筈だ…。それを突き詰めていれば、ひょとしたら自ら草加さん達の存在に辿り着けたかもしれない…。
「そして春菊さん、再び貴方と出会ったのがあの病院だったわね…」
「ああ…。私が秋子を目覚めさせる為あの病院に赴いた時、祐一君の側に君が居た…」
「その時私は気配で春菊さんが嘗て私に人間に戻るキッカケを与えてくれた人だと分かった。そして私はその確認として、あの時春菊さんが渡してくれた風鈴を目の前にかざした…」
「あの風鈴は、もし君が人間に戻っていら、再び出会った時一目で君だと分かるようにと、一緒に入れておいた物だ…。その風鈴を君が出したのでその確認が出来た…」
「あの風鈴からは春菊さんの強い想いを感じた…。この風鈴は春菊さんにとってとっても大切な物ね…」
「ああ…。あの風鈴は日人が私の為に作ってくれた風鈴だからな…」
今思い返せばあの風鈴には表には旭日と月の紋章が、裏には水滴と菊が刻まれていた。恐らく月は月宮という性、旭日は日人という名を表しているのだろう。そして同じ要領で水滴は水瀬という性、菊は春菊という名を表しているのだろう。結局の所、真琴の周りには春菊さんの生存を示す物的証拠が数多く残されていたのだ。
「しかし、君が思い慕った人間というのが祐一君だというのは少々驚いたな…。もっとも、そのお陰で普通の人間として暮らす手続きが容易に出来たのだがな……」
「…春菊さん、春菊さんは自分の力を使って秋子さんを蘇らせたのですよね?でもそれによって持っていた力を失った…。という事は今の春菊さんは……」
「察しの通り、今の私は影の天皇ではない。だからこそここにいられるのだがな…」
だとしたら合点が行かない事がある。草加さん達は前々から春菊さんに目を付けていた、という事は随分前から春菊さんが影の天皇になるのは決まっていたのだ。それならば、何故春菊さんは影の天皇を降りる事が出来たのか?私はその辺りを春菊さんに訊ねてみた。
「それはだな、私が人間だからだ…」
「えっ!?」
「私は人間であって神ではない…。もしも私が神であったならその地位は絶対であっただろう…、だが私は人間だ。今上天皇陛下と違い、私は憲法上基本的人権が認められている身分だ。つまり、自分が退位したい時に退位出来るという事だ」
「この力はいずれ自分の愛する者の為に誓い失うであろう。その時までなら務めても良い。それが春菊殿のの条件でしたね…」
「ああ…。もっとも理由はそれだけではなかったがな…」
春樹さんは草加さんの問いに答えた後、ゆっくりと神木があった場所へと歩み寄る。そして…、
「申し訳ありません…。私が在位している間は見つける事は出来ませんでした……」
『気にするでない…。この国の民は今は一億を超えるのだ…。その中から特定の人を探すなどそう易々と成就出来るものではない…』
「えっ…?この声は…」
間違いない、春菊さんの声に答えるこの声は、この山に住みし八百万神の長の声…。
「君にも聞こえたかこの声が…。そして我々の未だ終わっていない最後の使命、それはこの声の主に関する事だ……」
「それは一体……?」
「それはボクが説明するよ…、祐一君、目を瞑って……」
「あ、ああ……」
あゆに言われるがままに私は目を瞑る…。そうしたら頭の中にイメージが湧いて来た…。流れる雲、蒼空の大気…、そしてその中心には羽を持った少女の姿があった……。
「えっ?こ、これは……」
『その羽を持ちし少女こそ、大気に己の意に反し体を縛り付けられている大君たる我の想い人……』
「これが貴方の想い人…」
「貴方の大切な人の背中には羽があった。そしてここの木にはお父さんの想いだけでなく、貴方の大切な人に対する想いも篭っていた…。だからボクのあの鞄には羽が付いていたんだね…」
「我々は半世紀の間、この御方に関係する人を探すも見つけられず、特捜隊の隊員も老いと病により亡くなり、今生きているのは私と津田だけとなった…。だが、私は既に90を過ぎ、津田も私よりは若いとはいえ、既に80を回っている…。二人ともいつこの世を去っても不思議ではない…。それで祐一君、君に頼みがある…。我々のこの使命、君が受け継いで欲しい…。天皇と同じ力を持つ君に……」
「えっ、私のこの力が天皇と同じ力…」
「そうだ…。春菊殿でさえ、自分の想い人を目覚めさせるには力の全てを使わざるを得なかった。だが君は春菊殿と同じ行為を行ってもなお、その力を失わなかった…。春菊殿の持つ力は源氏の力…、それを超える力は只一つ、全ての力の源流たる力、天皇力(すめらぎのおちから)以外この世には存在しない……」
「でも、どうして私がその力を?私も春樹さんと同じ源氏の血を継ぐ者でしかない筈……」
「兄様、それはね、兄様に力を授けた舞さんがその力を持っていたからよ」
「えっ!?舞が……」
「皇家はかれこれ2660年近くの歴史を持つわ。その間天皇の血を受継ぐ者は諸派に分かれた、源氏もその一つね。多分舞さんの家系は近代に皇家から分かれた家柄なのでしょうね、だから源氏の力よりも高レベルな天皇力に目覚めれたのよ。もっとも、目覚めたといっても本家本元には敵わなかったでしょうけど。ただ、兄様は源氏の力に舞さんから授かった力を加え、力の割合が大きくなった。それで本流に匹敵する力を得られたのよ」
「力というのは使わなければ衰えるが、使い続ければその力は増大する。そして、力が覚醒するのに必要な鍵、それは人が人を想う心…。その想いが強ければ強い程力は無限に高まる……」
「祐一兄様はあゆさんだけではなく、私や栞さん、秋子さんまでもその力によって救おうとした。多くの人を想い、多くの人の為にその力を使おうとした…。その行為が兄様の力を最終的に天皇の位まで高めたのよ……」
多くの人を想い、多くの人を持ちしその力で救おうとした…。その結果が私の力を天皇の位まで高めた。ならば私の答えは―、
「その任務が力持ちし者に課せられた使命ならば、私は慎んでその使命を受継ぎ致します」
「待って祐一君、ボクも受継ぐよ。ボクもお母さんから力を受継いだ者だし」
「私もよ。それが同化した阿弖流為の願いでもあるし…」
「あゆ、真琴……」
「お参方恩に着る……」
そう言い終えると草加さんは立ち上がり、再び軍刀を胸元にかざし声を上げる…。
「では若人達よ!君達にこの”やまと”の未来を任せる!!」
「やまと…!?日本ではないのですか…?」
「日本という国号は6世紀前後に作られた国名だ…。その前は倭、また明治維新から敗戦までは大日本帝國とも呼んでいた……。だが、それらの国名に関係なく、この四海に囲まれ豊かな山川に恵まれた地は存在していた…、それこそ何千万年前からも…。護るべきもの、未来へと伝えられるべきものは日本という国家ではない…。その何千万年前から受継がれて来たこの豊穣の地だ…。私はそれを”やまと”と呼びたい……」
「やまとの”みらい”か……。分かりました、やまとの未来は私達が継ぎます。ただ、その前に教えて下さい……」
そう言い終え、私は神木のあった場所へと近づく…。
「やまとの未来を継ぐ者から教えて頂きたい事があります…。私に生きる道を開いてくれた貴方の名前、この地に壱千年身体を縛り続けている訳…。そして貴方の大君たる羽を持ちし少女の事を……」
「よかろう…。我が名は柳也、我が大君の名は神奈…。そして我や神奈は貴殿と同様……」
「うぐぅ〜、秋子さん、この味付け御飯、すっごく美味しいよ〜」
「まだまだお代わりがありますから、たっぷり食べて下さいね」
「それにしても、母さんの手料理食べるの久し振りだな〜」
「あら祐一、お世辞を言っても何も出ないわよ」
帰宅後、水瀬家では盛大な夕食が準備されていた。その日の夕食は水瀬家に真琴を含めた相沢家、そしてあゆを含め、大人数で時間も忘れる位賑わった…。
「ふう、お腹一杯だよ」
「あゆ、お前も星を眺めに来たのか?」
「うん!」
夕食後、私は腹休めを兼ねてベランダで星を眺めていた。そして暫くしてそこにあゆがやってくる。
「あゆ、夜はもう怖くないか?」
「うん、ボクもう子供じゃないし」
「自分の事をボクと言っているようではまだまだ坊やだな…(C・V池田秀一)」
「うぐぅ……」
「ははっ、冗談だ…」
「それにしても奇麗な星空だね祐一君……」
「ああ…」
今宵は晴天で、大気は満天の星空で覆われていた。この星もまた何千万年前から存在していたのだろう…、そんな事を思いながら暫し夜空に魅入っていた…。
「ねえ、祐一君。祐一君はこれからどうするつもり?」
「そうだな…。真琴はまだ狐の姿でいる子孫がいるかもしれないと再び山に入るって言っていたけど、私はどうするかな…。とりあえず最後の高校生活を存分に楽しむよ。後の事はそれからだ…」
「そんなに単純でいいの?」
「良いんじゃないか?草加さんも言ってただろ?世俗を離れた所には未来は存在しないって。本格的に探すのはそれからでも遅くないだろ?まずは今を精一杯生きるのが最優先だ
、それが一番の近道な気もするし…」
「うん…そうだね……」
そう―、急ぐ必要はない……。少しずつ確実に向かえばいいのだ……。
人その者は永遠ではない、だけど人から人へと想いを伝える事は出来る。そしてその想いの伝承はそれこそ永遠に語り継がれる……。
そして全ては、やまとのみらいへ―。
…みちのくKanon傳完
…そして―
「おい、潤。そんなに急ぐなよ!」
「へへっ、悪い悪い」
高校受験の合格発表の日、私は潤に連れられ学校へと赴いていた。何でも今の内にめぼしい新入生に目を付けておくのだそうだ。
「何だかんだ言って結局の所、可愛い女の子を今の内物色しておきたいんだろ?」
「まあな。おっ、可愛い娘発見。じゃあな、祐一!」
「全く…」
「あ、あの……」
「ん?」
新入生を追う潤に呆れていたら、不意に後から声を掛けられた。
「見掛けない顔だな?ひょっとして新入生?」
「ええ…。あの…、相沢祐一さんですよね…?」
「ああ、そうだけど……」
「ちっす……」
新入生らしき女性にいきなり妙に親しい挨拶を掛けられ、私は暫し硬直する。
「え、え〜っと…。と、ところで君は合格発表はもう見たのかい?」
「ええ…。バッチリです……」
「そ、そう…、それは良かった……」
あまり意味が理解出来ないが、恐らく合格したという意味なのだろう。
「私、相沢先輩に憧れてこの学校を受験しました……」
「へぇ〜、それは光栄だね〜〜」
「お近づきの印にこれを進呈します…。では後程……」
「あ、ちょっと……」
御祝儀袋を渡し、その少女は私の前から立ち去った。それにしても今の新入生、何処となく雰囲気が舞に似ていたような…。
「祐一〜、早々に新入生からラブレターか?全く、テレビで有名になったモンは流石にもてるね〜」
「そんなんじゃないって…」
からかう潤を尻目に私はその御祝儀袋を眺めた。真中には楷書体で「進呈」と書かれていた。そして御祝儀袋を開けるとその中には…、
「何だこりゃ?」
何故かお米券が入っていた……。
…新たなる物語へ続く―
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